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趣旨

不確実な世界情勢の根底には中国の膨張がある。同国の中枢は壮大なスローガンを掲げ、「一帯一路」に代表される大国外交を進めてきた。アメリカとの摩擦を招きつつも、建国百周年となる2049年を見据え、社会主義強国の完成を急ぐ。だが、これは力による現状変更を伴うもので、その試みは中国に近接する地域で著しい。膨張の余波はインド太平洋地域を超えて世界に及ぶ。経済安全保障をはじめとした各国の経済・社会への影響も然りである。

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大国化した中国をいかに受け止めるかという点で各国は割れている。現状打破の志向が強いグローバル・サウスの反応は象徴的だろう。

新興・途上国のなかには中国の台頭を歓迎する国や、米中対立においてヘッジング戦略を企図する国も少なくない。事実、世界の分極化を裏付けるかのように、中国が主導する上海協力機構やBRICSは求心力を高めつつある。国連で増す中国の存在感も、これを支持する国々があってのことだろう。

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中国の挑戦にいかに向き合うか―「インド太平洋」の意義

その一方で、中国の強圧的な姿勢に対する懸念は強く、合従の動きも生まれている。日本、アメリカ、オーストラリアはインドとともに四者(QUAD)で構え、「インド太平洋」の名で対抗措置を講じてきた。対象国こそ明かされないが、日本が構想した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」も対抗の一環と言えよう。法の支配を謳うFOIPは日本の大戦略となって、中国との勢力均衡に寄与してきた。

これに加えて日本が唱導する「自由で開かれた国際秩序(FOIO)」は、国際法の原則を御旗に、普遍的なメッセージで「野蛮な力と威圧」を牽制する。

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Prime Minister’s Office of Japan

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Malabar 2022 I Japan Maritime

Self-Defense Force

法の支配による国際秩序において、中国が自由主義諸国と共存する日は訪れるのか。「建設的かつ安定的な関係」を中国と築けるだろうか。この国が覇権主義的な行動を改めることはそもそもあるのか―。日本が示す国際秩序観は、中国がもたらす根源的な問題ばかりか、インド太平洋戦略のエンドゲームを浮き上がらせる。

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研究プロジェクト「中国の挑戦とインド太平洋」は、中国の挑戦とこれに向き合う主要国の反応、さまざまな地域と国々の動向、そして最前線の課題を解き明かす。認知領域における「言説」、国家間での「協力」、地理を超えた「空間」を補助線としつつ、インド太平洋とその先における戦略的競争を追っていく。こうした分析を通して、「自由で開かれた国際秩序」の展望や含意を検証しつつ、「インド太平洋」の意義を考えていきたい。

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(上記の見解はプロジェクト責任者のものであり、参加メンバーおよびそれぞれの所属組織の見解を代弁するものでは必ずしもありません。)

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世界は不透明で流動的な様相を深めている。

 

「中国の夢」という名の覇権主義のかたわらで、ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがしつつ、国家間の力学を変える展開となった。イスラエル・ハマス戦争も各国の間に深い亀裂を生んでいる。各地で戦火が続き、世界が対立と分断に陥るなか、日本は「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」を唱えるものの、その実現は容易ではない。

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